告解

from takala

三者関係

 充との輪華を巡る迄の関係は良好だった。言い争った事は一度も無い。あちらは無駄を削ぎ落とした対話、やり取りを望んでいた。深い思索の話はした事が無い。付き合い易いクラスメイトといった風情。チェスならチェス、フットサルならフットサル。飲みに行くならそれだけの間柄。

 輪華と充が出逢ってからだ。関係を密接にし出した。こちらから。充は充で初めて“恋愛相談”をし始めた。それだけ輪華に掴み所が無かったのだ。充は一見、人懐こい。自分より更に女慣れしている。それが彼女の前では通じない様子。

 初期から二人の話は包み隠さず聞いていたが、輪華は出逢って3ヶ月足らずで充に「結婚したい」との言葉を吐いていた。充がその1ヶ月前にペアリングを贈っている事を受けてかと思うが、非常にショックだった。同時期に輪華を結婚前提で口説いていた訳だが、こちらは丸無視されている。

 輪華は充と同衾(半同棲)していても、相変わらず奇怪な問題行動を起こしていた。充が感知したのは2名との事だが、他に男が居た様だ。夜中3時に急にアパートを出、帰って来ない。充は輪華の携帯を見たらしいが、男の正体は掴めず。元彼の医師を疑うが確証は無し。

 食事は幾ら言い聞かせても食べない。例の「食べて良い?」を繰り返し結局食べずに泣き出す。夕方朝方、時間関係なく突如いなくなる。

 充が普通の男であれば、この時点で音を上げている。彼は「世話のやり甲斐があるミステリアスな病的な女」がどうやら好物の様子であった。全く馬鹿馬鹿しいが、自分も同種であるから始末に負えない。されど共依存も一種の愛の型であると言っておこう。

 驚くべき強さと速度で充は輪華に夢中になって行った。恐ろしい事である。恰も過去の再現フィルムを観ているかの様だ。純心な男程、彼女に嵌まる。それを考えると不倫医師は自身の立場を優先出来た、純心でない男と言えよう。

  伴って充はどんどんと不安定になって行く。

痩せて顔色は悪くなり、精神的な余裕を無くして行く。しかし会社では重大な位置付けに抜擢。輪華は「私が願ったの」と言う。確かに彼女に符だの何だの頼むと、その都度効果はあった。この頃は引き換えに本を買ってやるのが常だった。

 充に心身不安定の隙が生じた辺りから、洗脳という程でないが心理操作を始めた。僅かに少しずつ理性を削いで行った。何が正常な判断か彼には判らなくなっていただろう。

 必ずしも巧く行くとは限らず、充は仕事中に輪華へ一日何度も連絡を入れたり仕事を放り出し彼女の勤務先の塾へ、送迎に出向いたりした。それで仕事の評価を下げないのだから見上げたものだが、彼女の送迎は可能な範囲で自分がやろうとしていた。ところが輪華は勝手に電車に乗ってみたり塾の社員(男)の車に乗ってみたり、やはりこちらの思惑を裏切る事しきりである。打てど打てど響かず。

 特にDVに関しては何時どの様に勃発するのか、探り切れなかった。形としては性行為と暴力が併合している。輪華が充に暗示を掛けている。密室で二人だけで行われている。手の出し様が無い。

 治療が必要になったとしても輪華には「充君が好きだから」と言われる。その時は気が抜ける。こんな女は放置するしかないとも時に思う。障らぬ神に祟り無し。

 暫くすると気に掛かってしまう。連絡が来れば返してしまう。会えるなら会いに行く。会いたい。彼女が充と婚約したのは何かの間違いではないかと本気で疑う。仮に結婚しても不倫で良いじゃないかと考える。結婚生活に二人が突入した方が早く破綻するのではと期待する。

 この頃の心境も回想すると辛い。悪夢の一つである。飛び起きて横を見る。輪華が隣で安眠している。それに飽く事なく驚く。何食わぬ顔で少女の様相で寝ている………

 また既視感。二度と消えない様に去らない様に充に戻らぬ様に輪華を呪う。

 

余談;

 心臓に過負担であるからして、現在は体を縛る事は不可。毛糸や凧糸、縫糸で呪術としては緩く縛るが、足を絡ませて転ぶので注意している。

注;

 輪華はこれを自力では解けない。敢えて解かないのかも知れない。