告解

from takala

部屋

部屋や家には心象風景が現れる。輪々華がよく言っている。

彼女の現在の部屋は祈りの為の部屋である。鎮座しているのは神々像,聖具,アンティークドール

輪々華の学生時代の部屋を見た時の事。只一度きりではあるが。{独身時は一切見ていない}

統一性が無かった。物は少なかった。しかし統一していないので落ち着かない部屋だった。

寝具が無い。どこで寝ているのか尋ねたら押入れを指差した。中には浴衣と圧縮された袋入りの布団があると言った。その隙間で寝るらしい。足を折り曲げるから日中急に歩けなくなると言った。エコノミー症候群である。

本も統一性が無い。本棚はあった。血縁の伯父(学者)がくれたという物理学の本。グロテスクなホラー漫画。児童文学。童話。姉のお下がりというファッション雑誌。

服も無かった。姉の部屋が隣にあるので適当に着るらしい。

窓辺でハーブを育てていた。英語でオーストラリアの子供と文通していた。彼女の養父はやはりチグハグな感覚であるらしく、スロットで彼女が利益を上げた時は高価なドールハウスの家具等を与える様だった。

トイレが倉庫の如くコンクリート剥き出しだった。キッチンも洗濯機もあったが冷蔵庫は無い、水道水がカルキ臭いから飲まない、給食のミルク(瓶入りの牛乳をミルクと言った)を少し飲めば一日保つ等々、輪々華は話した。

四階に住んでいた。五階は無人の筈だが浮浪者が侵入している、という事だった。鍵が壊され一室に敷布団がある。怖いから行かない、と彼女は言った。

姉の彼氏が来た際、夜間に階段の踊り場で勉強していると聞いて心配したものだ。だから迎えに行ったりこちらの家に泊まらせたりした。

自分にとっては彼女に纏わる事柄は異空間、異世界だった。持っている文化やら過ごして来た時間が違う等でなく、理解が及ばないからだ。

荒廃した生活に見えたのだが、精神的には充実を目指しているのが見て取れた。写経も読経もしていた。心を保てるからだと彼女は言った。

とは言え話の合う分野も多かった。小学校の図書室の本は読み尽くしたと言う輪々華は博識であり、ダークサイドの知識も数知れず持っていた。表に出ていない歴史だの昆虫の性質だの不気味な呪文だの、会話が途切れない相手だったのだ。

配偶者という立場は与え合う、或いは受容し合うもの。影響し合うもの。彼女に物体でない何かを贈っている自信が無い。影響しているかが分からない。