告解

from takala

要求

 霊視がどの様なものか、その能力を有しない場合は想像して欲しい。

 読書しながら情景を思い浮かべる。誰しも行う事だ。人物の顔はくっきりと浮かぶだろうか。空気の匂いは?食べ物が有るならその味は?何かに触れたならその感触は?

 ここ迄詳細には文章から想起出来ないと思うが、霊視とは如何に慣れていようと不意にある場所、ある時のシーンに放り込まれるものだ。自分は長らく幼少から視ない様にしていた。現実と区別出来なくなるからである。自分という軸からブレたら気が変になる。それに気付いてからは必要でなくば、視ない事にした。

  水晶を介すると場所・時・人物を定めて視る事が可能になった。それでも必要がない限りは視ない。そちらの世界に傾倒し過ぎたら社会生活を送る事が困難になる。守る者が居る限りはそちらには傾かない。半身を死に浸けて迄、視たくない。神々とは渡り合えない。輪華の真似事は出来ない。

 

 彼女が充と暮らしている間、視たくない事は視なかった。視ない様にしていた。又、視ようと試みても視えなかった。輪華が念入りに隠していたからだ。

 不倫状態の日常で、充に勝ったと思う日もあれば落ち着かず、不安な日もあった。充に対しざまあ見ろと思いながらも輪華の精神が全く掴めなかった。

彼女が最後のDVで助けを求めて来た日。以降から次第に不安は減少の一途を辿った。しかし現在も0とは言えない。

 輪華には様々な要求をした。彼女を困らせるでなく苦しめたかった。苦悩するという事はこちらの姿が頭から離れないという事だ。毎時間片時も忘れず苦悩して欲しかった。

 妊娠はしないと最初に彼女は言った。それでも事後にシャワーをしないでくれと告げた。生理用品で良い、栓をしておいてくれと言った。彼女は了承した。何も答えず頷いた。無表情。

 彼女が充と暮らす家を霊視すると、寝室だけが視えなかった。影を纏った様に。

 輪華にまた要求した。充と寝ているベッドで充でなく自分の姿を想い自慰をして欲しい。充を想わない事。昼間一緒に居た時間を忘れない様に。

 謂わば夫婦の聖域を侵したい。聖域でない場所として塗り替えたい。塗り替えるではなく塗り潰したい。彼の妻の立場である輪華にそれをさせる。彼女の念を使って聖域を潰す。

 彼女は了承した。特に異存は無かった。何処迄も人に応えようとする…、ではLINEで中継しろと言った。流石に彼女の顔が曇った。中継そのものに対してではない。寝室を映す、ベッドを映すというのは他の時間の残像が視えるからだ。ソファーでは駄目か訊ねて来た。訊ねた直後にソファーも多分良くないと思う、と彼女は続けた。

 中継のみならず録画で数回試したのだが、ソファーは充が座っている光景が視えた。輪華は全裸で彼の両脚の間に膝まづいていた。視続ける事が出来なかった。彼女の今の姿にのみ集中しようとしても霊視が邪魔をする。近くに置いていた水晶を割った。それでも視えた。

  一度、充と寝ている時に音声だけ録って貰った事がある。DVの証拠が欲しかった為もあるが、聴き続ける事はやはり出来なかった。

 彼女が充と夜間に同じベッドで寝ている。我慢ならなかった。こちらとはあくまで不倫だと突き付けられているのと同じである。癌という爆弾を抱えて毎日虚ろな目で二人の男の好きな様に体を差し出している彼女の、意図が分からない。意思が無いのだろうか。

 輪華を愚かだと思う事もあれば、次の瞬間には尊い遥か格上の存在に思え罪悪に支配される。性暴力を奮われても充から離れない愚鈍さに、苛々する事もある。ならばこちらが彼女を壊しても文句も無いだろう。こいつは残虐な行為が出来る男なら、誰でも良いのではないか?しかし不満を言葉に変え責めていると不正出血する。泣かれるより悪い。

 占館で合意なく強姦の形を取った時に、呆気なく輪華の腕の骨にヒビが入った事。あの時に感じた快さ。恐ろしい程だった。充は中毒に陥り麻痺しているのだと分かった。結果として彼女が死亡したとして、最期迄受け入れてくれたと充は思うのだろう。「愛」で。

 輪華は底無しの穴だ。包まれているのか彼女に要求されているのか、要求に応えれば際限無く包んで貰えるのか。どちらかが死に至る迄、間違いなく輪華の側がそうなる時点。そこが終着点。

  決して彼女には流されない。彼女の闇の要求には応えない。思春期には容易に流されたがもう流されない。自分は充の二の轍は踏まない。輪華を傷付けない。ここに約束する。