20才
再会した時は驚きました。地元ですので人混みではよく、知り合いに会いもしますが。
輪々華がいなくなってからは彼女を死んだ事にし、精神安定を図っていました。棄てられた拒絶されたと考えるよりは、死んだと思った方が楽であったので。
その時は遠くから視、彼女は霊と同化している様な状態でした。
黒いコートに透ける如く白い顔で気配はまるで無く、普通ならまず気付かぬ。元から痩せていたが更に痩せていました。
現在の方が身体的には状態が悪いのだろうが、当時の方が悪かった様に見えます。棺桶に両足を突っ込んでいました。後は横たわるだけという感。精神面が死に惹かれていました。
現在は生きようとしているのが救い。
再会直前、地元にいる事もあり輪々華を思い出していた為、目を疑いました。あちらは気付いておらず、ずっと霊と対話している。擦れ違いざま、腕を掴んでこちら側に引寄せました。対話していた霊は6人も居、質も良くなく直ぐ祓いました。
おそらくだが霊を視る様にしてこちらを視ていました。輪々華は先ず人を見るとスキャンを始めます。
無表情で彼女は「多嘉良だ」と言いました。
ここでようやく気付いた様子。
妙な感覚ですが声を聞いたら、彼女が喋る事にまた驚きました。喋らないと思っていた人形が話をしたという感覚です。
時間があるか否かも聞かず、その辺の店に連れて行きました。手が氷より冷たかった為、暖を取らせねばと思った次第です。思わず頬や髪にも触れたが反応無し。頬は昔の柔らかい触感でなく痩けていた、髪も栄養が無く細り量が減っていました。20才の様相ではありません。大病した現在よりも、細胞が仕事をしていない様子でした。
ブラックコーヒーしか要らないと言っていたが、何らか食べ物を強く勧めると何故か寒い中パフェ。喉に流し込み易いとの理由か。例の如く食べて良いか何度か訊いて来ました。懐かしいと感じました。
嫌々食べていました。乳製品を毛嫌いしている様子でした。4分の1程食わせたら機嫌が悪くなり終いに泣き出したので、連絡先のみ聞き出してその日はそれだけでした。
東京に戻る前に、彼女が当時住んでいたアパート前に行きました。アポなしですので当然と言えば当然ですが、「人が来ているから」と会えず。口実でなく男。しかも随分歳上。
愛人稼業でもやっているのかと非常に嫌な気分になりました。
そいつの車を見、世の中は金と思いました。
輪々華を見くびった事になりますが、金で買われたのだとも思いました。彼女は大人しそうに見えるが中身は、全く違います。奇妙な嗜癖にも平気で対応します。
後から聞きましたが「手当」は貰っていなかったとの事。本当かどうかすら読めないが、『プラトニックだった』と未だに言う。
しかし自分がその時に視た範囲では、相手は古物商ではない。
高価な骨董を蒐集する様な人間は、殆どが変り者の資産家です。仕事先で幾らでも縁はあったであろう。
虐待の加担者でもあるが母親だけは、どうしても見捨てられないので仕事{当時は骨董店の店員,画家,絵画教室のモデル}をしながら母親の病院に通っていたと。病院付近に引っ越してまで、通う価値が有るのか知りませんが。食事を与えなかった親に価値が有るのか。
義理の祖母{犯罪者である義理の父親の母}の世話をしに、山奥まで行っている話も聞きました。
言われてみれば愛人ならばもっと、良い場所に住んでいただろう。普通の学生が住むアパートでした。相手のおやじは物珍しさから、輪々華に入れ込んでいた様です。
その時は様々な推測をし、輪々華の存在を金で買えるなら買ってやろう程度に思いました。
相変わらず苦労を背負い込んでいるからして、後髪も引かれましたが仮に大学を辞めて帰って来ても就ける職はたかが知れています。
暫くは友人として接する事に決めました。長期戦となる覚悟を固めました。但しこれ程に長くなるとは思わず。
二度目の失敗です。大学を辞めて地元に戻り、結婚すべきでした。大学辞めて来た結婚しようと言えば、輪々華は断らなかった筈です。何らか代償を払ってから押せば落ちます。
{現在は仕事を辞めた事を経ている}
当時は贅沢は出来なかっただろうが、一生食わせて行く位は出来ました。彼女は経済観念が無い故、経済力を結婚相手に求めていません。そもそも魂の型だの学びの期間だの、目に見えぬ部分で一緒にいる者を決定している。
『20代はお互い、他の人と過ごすべき時だった』等と後から言われたが、
離れていた間の互いの経験やら学びやらは、別に有ろうが無かろうがどちらでも良かったと思っています。どこに生かせる経験か。現状、役立っていません。
彼女と離れる時間ならば要りませんでした。生きている事が苦痛ですらありました。